OSSAJ に高校生がやってきた

ある日突然 OSSAJ 事務局に広島県の高校生から「オープンソースソフトウェアの現状について知りたいので訪問させてもらってもいいか」という問い合わせが舞い込んできました。いったいどういうことかと思いつつも、事務局で対応することになりました。恐らくはめったに見られないであろう、高校生と社会人のオープンソース談義をここに公開したいと思います。

やってきた二人は広島県立尾道北高等学校2年生の竹内さんと高橋さん。聞くところによると、学校の行事で研修旅行というのがあり、自分たちで興味のある分野の会社や官公庁などに話を聞きに行っているとのこと。訪問先の選定からアポ取りまで全部自分たちでやっているようです。OSSAJ に来た二人は、筑波にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)にも行くそうで、その精力的な行動力には驚きました。この高校ではいわゆる修学旅行に相当するのが今回の研修旅行で、観光地の代わりに企業などを巡っているようです。確かに本来の意味の修学旅行を実践している感じです。

OSSAJ のことは Web で検索して見つけてくれたそうで、特に竹内さんがオープンソースソフトウェアに興味を持っているようでした。

それでは当日のやり取りの抄録です。できるだけ忠実に再現しようとしたんですが、やっぱり無理でした。:-) それでも何となく雰囲気だけでも味わっていただければ幸いです。


日時:2007年7月26日 14:00 - 16:00
場所:株式会社アールワークス会議室
参加者:
広島県立尾道北高等学校 竹内さん(質疑担当)、高橋さん(記録担当)
OSSAJ 事務局 能登事務局長(司会進行)、小碇理事、
山田理事(途中参加)、佐野、岡崎


竹内・高橋:本日はよろしくお願いします。

能登:何でオープンソースソフトウェア(以下 OSS)に興味を持ったのか。

竹内:趣味で小学生の頃からパソコンを使い始め、現在に至るまで FreeBSD や Linux を触ってきた。最近では Macintosh で NeoOffice などを利用している。OSS は自分でソースコードを直接触ることができて、改良したものを公開できる。このような仕組みのなかで、自分も何か役に立つことができるのではないかと考え、OSS に興味を持った。

能登:それでは質疑をどうぞ。

竹内:まず、組み込みソフトに OSS を利用する場合の法的問題について知りたい。OSS を組み込みソフトに使ったとき、ライセンスを公表しないこともあると聞くが実際のところはどうなっているのか。

佐野:GPL は改変したら公開しなければいけない。しかし、ドライバのソースコード経由でハードウェア周りの機密にしておきたい部分の情報が分かってしまう可能性が出てきてしまう。そのため企業は GPL を使わないという判断をする。ちなみにソニー社の PS2 では開発環境が Linux ベースであったこともあり、PS2 Linux というディストリビューションが販売されたことがあった。最近では特許に引っかかりそうなものをディストリビューションに含めない傾向が強くなってきている。

竹内:Linuxでは特許が絡むモノはのせられないのか。

佐野:そうだ。現状ではディストリビューションの方針の方針として、特許が絡みそうなドライバなどを入れなくなってきている。音楽プレーヤー、Adobe PDF Reader、Java ランタイムなどがそうだが、あくまでもディストリビューションの判断によっている。

竹内:東南アジアなどでは、公共機関に Linux をはじめとする OSS が広く使われているらしいが、日本国内では浸透していない印象が強く、実際に使っているという話をほとんど聞かない。国内では OSS よりもフリーソフト、シェアウェアが広く流通している印象がある。また、日本における大きな OSS のプロジェクトを見たことがない。有名処としては namazu くらいか?日本発 OSS は42件しかないというレポートを巡る議論もあった。

佐野:OSS プロジェクト推進用プラットホームである SourceForg の日本語版(SourceForg.jp)に登録されているプロジェクト数は、オリジナル版(SourceForg.net)に比べて一桁少ない。しかし、SourceForg の登録プロジェクト数は必ずしも活動度と直結しているわけでもないので、単純に比較判断するのは難しい。それよりも、なぜ日本だけのコミュニティにこだわるのか。日本発のプロジェクトはもちろんあってもいいが、日本国内だけにこだわることはない。日本語コミュニティに閉じる必要はないのではないか。

竹内:ソフトウェア開発技術者のうち、どれくらいの人数が OSS に関わっているのか?

佐野:日本では 2-3% か?人口比で見ても他国よりは少ないと思う。GPL3 会議の参加者のうち、日本人は数パーセント。

能登:アメリカ国籍であっても他国の出身者が多く含まれている可能性がある。数字だけで見ると日本は極端に少ないように見えるかもしれない。ネットワークが発達したことにより、OSS のプロジェクトには国籍などに関係なく参加できるようになった。

佐野:OSS のプロジェクトの多くでは英語が共通語になるので、英語に対する敷居が低い国のほうが参加しやすいという事実はある。

小碇:北欧は情報通信を社会インフラと捉えて、昔から国策として強力に推進してきた経緯がある。

竹内:国内の行政でサーバ用途以外に OSS を採用するところはあるのか?

能登:長崎県庁、栃木県二宮町、沖縄県浦添市などではクライアント環境に OSS を利用する試みが始まっている。

竹内:国内ではマイクロソフト社の Office や、ジャストシステム社の一太郎などが普及しているようだが、例えば OpenOffice.org を導入した方が経費の節減になるのではないか?途上国では商用製品を購入できないので代替品として OSS を広く採用していることをテレビ番組で知った。日本ではすでに商用製品がデファクトになっているので変えられないのか?

佐野:日本は横並びの傾向がある。

小碇:すでに使い慣れている物を、手間を掛けてわざわざ置き換えようとは考えない。

能登:他社や他の組織などでも使われていて安心感のあるものを使うのが一般的な動機。でも、そういったソフトウェア製品は高額である場合が多い。そういう状況の中で OSS を知った人達がリスクを承知で使い始めている。

竹内:OSS 製品に対する保守を提供する会社が増えることも普及の原動力にならないか?

能登:たしかに安心が必要だと思う。

竹内:保守の会社は増えているのか?

能登:OSS はむしろ保守でしかお金がもらえない。保守以外には導入やコンサルティングなどが考えられる。

小碇:もともとは開発者コミュニティの集まりだった OSS コンファレンスに参加する企業が毎年増えている。ただし地域密着で OSS の保守やコンサルティングをやってくれるようなところはまだまだ少ない。

竹内:OSS を扱える技術者は多くないのか?特定のソフトに特化した保守をできる人が少ないのか?

小碇:東京では多いが地方では少ないのが実情。最近では新潟、島根などで徐々に出てきている。インドや中国では国策で技術者養成を推進している。日本は前向きであってもそれほど力が入っているようには見えない。インドでは貧困地であっても学校に行くと OSS をベースとした教育環境が整っている。

竹内:教育できる人の養成が必要なのか?。

佐野:MS Word の使い方と OSS のソースコードを解析するスキルがごっちゃになっている。このあたりを整理していかないと、教育の成果は望めない。

竹内:自分はジャンクいじりが楽しい。OSS のソースコードを触るのも同じ理由から。

小碇:Linux も楽しいから作った、というのが動機になっている。

山田理事がここで途中参加

竹内:国内の大学で OSS の利用は少ないのか?

佐野:多くの大学で PC はあくまでもツールとして使われている。いかにプレゼンテーションを上手にこなすかが主な利用目的となっている。そのため通常はデフォルトの環境(Windows)でも十分なため、OSS への関心は高いとは言えないかもしれない。

小碇:情報系では一応素養として教えられている。プログラミング教育もある。

竹内:教育自体が OSS につながっていないのではないか?

小碇:一部では OSS を意識した講座ができはじめているが、現存のカリキュラムを改革するのは難しい。

竹内:OSS は有料のソフトウェアと違って、世の中の役に立っているんだ、というイメージが強い。

小碇:OSS の魅力は無償という点か?

竹内:自分でソースコードをいじって楽しめる。改変が自由。他の人の役に立つ。利用の仕方がさまざま。開発者にとって自由がきく。

佐野:自分が欲しいものはみんなの欲しいモノ。

竹内:商用ソフトにもメリット、デメリットがあるように、OSS のデメリットはどのあたりにあるのか?

佐野:サポートの有無。現状を変えなければならないところに敷居がある。

山田:産業としては収益につながらない。だから OSS をやらない。体制を変えるために使う。小さい経済システムに移行するための手段にできる。例えば OpenOffice.org を使うことは独占への対抗手段となりうるが、まだまだ OpenOffice.org を使おうという努力が足りない。

小碇:OSS コンファレンスの参加者であっても OpenOffice.org の存在を知らないことがあり驚く。

山田:マイクロソフト社の動きは経済活動として正当なもの。しかし、それに 100% 乗るのがいいことではない。

佐野:独占の状況では代替を用意することが重要。オルタナティブ。

山田:みんながやることしかやらない。そうではなく流れを見極めて、そちらをやることが重要。なにかに束縛されたくないという気持ちが大切。

ここから山田理事が OpenDocument Format 普及の意義について熱く語った(詳細については省略)後、都合により退席。

能登:oo2b は ossaj の関連団体で OpenOffice.org を普及させたい人たちが集まった草の根運動体。OSS の世界には開発者のコミュニティと、使っている人たちのコミュニティ(ユーザグループ)がある。ossaj は使っている人たちのコミュニティであり、使ったときの情報を共有することを目指す。

佐野:一般に既存の OSS 関連ユーザ会は、開発者と利用者が一緒だったり特定のプロダクト向けになっている。ossaj は特定のプロダクトに特化せず、より広い範囲のコミュニティを目指している。

能登:政府は 4-5 年前から e-Japan 構想として OSS などを使い地方自治の仕事効率を改善しようとしている。OSS を使う人で、中身をいじれる人はほんの一握りしかいない。これからは大手のメーカやコンサルタント会社が主導するのではなく、現場で必要とするシステムを実際に使うユーザが主体となって OSS を活用していく必要がある。

小碇:大手メーカ主導で OSS を使ったとしても、これまでと何も変わらない。

能登:まだまだお話しは尽きないが時間が来たので終了したい。

竹内・高橋:本日はありがとうございました。


その後、竹内さん、高橋さんから当日の感想を寄せていただきました。

竹内さん:

このオープンソースソフトウェア協会での研修にて、ソフトウェアの面だけではなく、経済、社会など多面的なお話をお聞きすることができ、特に、「経済を小さくする」というお話にとても興味を持ちました。そのことに関して、もっと知り、もっと考えていかなければならないと思いました。

高橋さん:

今回のオープンソースソフトウェア協会の研修では多くのことを学ぶことが出来ましたがその中でオープンソースを使ったソフトウェアは今後いままで以上の勢いで増えていくのだろうということを強く感じました。そういった流れの中で自分には何が出来るのかということを考えていかなければならないと思いました。


以上。

(構成:OSSAJ 事務局 岡崎)